2022年の海運セクターは、上半期はアゲアゲの上昇相場、下半期は奈落の底に落とされたかのような下落を演じました。
ただ2023年に入ってから足元の株価は堅調に推移し、中間配当落ち前の水準にまで回復しつつあります。
この堅調さにはいろいろ理由はあると思うが、詰まるところは低バリエーションと配当利回りの圧倒的高さになると思います。
日本郵船や商船三井は15%を超え、平均的な上場企業の配当利回りの4倍にもなっています。
海運セクターは前期、進行期で非常に高い収益を叩き出し、PER、PBRなどで株価を分析すると、実体に見合わないほど割安な水準になっています。
しかし、足元2Q決算は四半期ベースで最高益を叩き出したにも関わらず、株価は最高値圏からずいぶん下に落ち込んでいます。
株価が上がらない原因はなんなのか?様々な角度で分析してみます。
1.2Q決算は良い数字が出る理由があった
2Qは海運市況が下がりだし、1Qよりも悪い結果が出ると多くの投資家が予想していました。
それが要因で秋口から海運セクターの強烈な下げに見舞われた。
しかしフタを開けてみれば、大手3社の収益は四半期ベースで最高益を記録、配当金の増配まで行った。
今まで海運セクターに触手を伸ばしていなかった投資家からみれば、「海運市況の下落は長期契約の多い船主には影響は出にくい」という錯覚を与える結果となってしまった。
これは大きな誤りで、収益を下支えするカラクリが眠っている。
・円安の影響
外航海運の決済の用いる通貨はドルです。
円安になれば売上が拡大し、円高になれば縮小します。
期間中の平均レートは1Q=129円、2Q=138円と2Qに7%円安が進みました。
これだけで7%分の売上や収益の上昇要因になっています。
・航海日数の影響
売上というものは履行義務が充足して計上されます。
例えば、1航海の契約代金を日割で計上したり、荷役が完了して計上するなど様々な収益認識があります。
船での輸送は何日もかかります、例えばアジア~ヨーロッパ間は1か月以上もかかります。
つまり、契約から実際の売上の計上まで相当な日数がかかり、海運市況がダイレクトに反映されません。
2Qは運賃市況が高い1Qの時期に契約された高単価な航海が多く行われ、売上の増加要因になったと考えられます。
つまり、2Q決算の数字はピークの運賃市況を取り込んだが、それ以降の低迷した海運市況をほとんど取り込んでいない可能性があるということです。
2.海運市況が低迷期に突入している
バラ積み船の市況指標であるバルチック海運指数(BDI)は、2023年に入って下落が加速し2020年6月以来の最安値を更新しています。
これは2021年10月7日につけた直近の高値5,650から80%以上の下落になっています。
季節柄、春節あたりに1年の最安値圏をつける傾向にあるが、昨年と比べ半値程度に低迷しています。
この要因はゼロコロナを推進した中国の経済低迷や、住宅需要の低迷による建設資材の需要減が影響していると考えられます。
他にコロナ下での輸送需要はピークを付け、港湾労働者不足が解消されたことで、荷役の目詰まりが緩和されています。
コンテナ船の運賃指標はすでにコロナ前の水準に落ち着いています。
海運セクターは海運市況が全てです。
海運セクターに投資するには、海運市況から確度の高い業績予想を推察することが必要です。
市況の変動で大きな黒字を計上するか、赤字を延々と垂れ流すか繰り返されているのが事実です。
今後の海運セクターの業績見通し
3Qは2Qと比べ確実に減収になると考えられます。
海運市況がダイレクトに反映されにくいとはいえ、市況のピークはコロナ禍前の水準まで落ち込んでいます。
それに加え円安が一服し、増収効果は小さくなっています。
日本郵船であれば経常利益で1兆円、商船三井なら8,000億円に到達できれば上出来だと考えます。
そうなれば、業績見通しの修正基準も到達する可能性も高く、また期末配当の増配も可能だと思います。
ただし、これを下回る場合、3月末には秋口の同様に配当落ちの水準まで株価が落ち込む危険があります。
さらに長期の業績見通し
景気や海運市況に左右されやすい海運セクターは、いくら海運国家の日本であっても赤字運行はありえます。
不安要素としては、海運市況が高い時期に他社から借りた傭船契約が割高になっている可能性です。
1日で手に入る運賃よりも1日船を借りる賃貸料の方が高ければ、海運市況が回復しない限り赤字です。
次に新造船が多く竣工する見通しがあることです 。
海上輸送の旺盛な需要を見て、多くの船主が新造船の発注を行いました。
今年から数年先に多くの新造船が竣工し、船舶の供給過多によって、海運市況はコロナ禍前の水準よりさらに割安になってしまう恐れがあります。
そうなれば、海運市況は簡単に回復することは無く、破産という最悪なシナリオもあります。
今後、そのような経営危機がないことを願っていますが、過去の決算から超割安だと食いつき、長期保有を試みる行為は相当危険なことかもしれません。
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